開業資金は、設備の見積額だけでは決まりません。設備資金、開業前費用、運転・予備資金を分け、支払日と入金日を月ごとに並べて計算します。
「開業資金はいくら必要か」と考えるとき、最初に内装や設備の見積もりを合計する方は少なくありません。
しかし、見積額と必要資金は同じではありません。売上が始まる前から家賃、人件費、採用費、Web制作費が発生し、開業後も売上が計画どおりに立ち上がるとは限らないからです。
その不足分について、融資、出資、補助金などの調達方法と入金時期を照合します。金額だけでなく、いつ口座へ入り、いつ支払うかまで見るのが資金計画です。
平均975万円を、そのまま予算にしない
2025年度 新規開業実態調査
平均より、自社の条件を見る
日本政策金融公庫の調査では、開業費用の平均は975万円、中央値は600万円でした。250万円未満が20.1%、250万〜500万円未満が21.7%です。
ただし、対象は日本政策金融公庫が融資した企業です。無借入で開業した人を含む、日本の全開業者の平均ではありません。
OPENING COST
平均975万円業種、面積、内装、設備、人員、許認可によって必要額は変わります。平均値は予算の答えではなく、「自社の計画に抜けがないか」を疑うための参考値として使います。
資金不足が起きる3つの原因
WHY FUNDS RUN SHORT
足りないのは、総額より時間
最終的な調達額が足りていても、契約金の支払日に口座残高が足りなければ、施工や納品は止まります。
また、売上が初月から計画どおりになる前提では、採用や集客の立ち上がりが遅れたときに耐えられません。
- 01見積外
家賃・採用・申請・備品
- 02時期差
着手金が融資実行より先
- 03売上差
立ち上がりが計画より遅い
同調査では、開業時に「資金繰り、資金調達」で苦労したと答えた事業者は56.9%でした。売上予測を一つに固定せず、遅れや追加費用を含む複数のケースを用意します。
開業資金を3つの箱に分ける
費用を一つの一覧にすると、支払時期と用途が混ざります。まず、次の3区分に分けてください。
設備資金
内装・設備・什器・車両・PC・保証金
開業前費用
採用・研修・家賃・Web・広告・申請
運転資金・予備費
人件費・家賃・仕入・返済・追加工事
設備資金は「支払条件」まで管理する
内装工事、機械、設備、什器、車両、PC、保証金などが該当します。見積額だけでなく、見積確度、発注予定日、着手金、中間金、最終支払日を記録します。
開業前費用は、売上がない期間の支出
採用費、開業前給与、研修、家賃、広告、Web制作、撮影、申請、専門家への依頼、消耗品などです。「毎月の経費」に埋めず、開業前費用として独立させます。
運転資金・予備費は、事業を止めない資金
家賃、人件費、仕入、水道光熱費、システム利用料、借入返済、税・社会保険などです。予備費は余ったお金ではなく、開業延期、追加工事、採用長期化などへ対応するための余力です。
自己資金・融資・補助金の役割を分ける
自己資金
発注や契約など、時期を待てない支払いへ充てやすい。一方で、設備費に使い切ると開業後の余力が弱くなります。
融資
設備資金と運転資金を返済期間と合わせて調達します。限度額ではなく、必要額と返済可能性から申込額を考えます。
補助金
採択後すぐ自由に使えるとは限りません。交付決定、発注、実績報告、入金までの時間差を確認します。
2026年8月3日時点、日本政策金融公庫の「新規開業・スタートアップ支援資金」は、新たに事業を始める方または事業開始後おおむね7年以内の方が対象です。設備資金・運転資金に利用でき、融資限度額は7,200万円、返済期間は設備資金20年以内、運転資金10年以内で、いずれも据置期間は5年以内です。
限度額は借りられる金額や借りるべき金額を示すものではありません。審査があり、適用条件・利率・必要書類は申込時点の公式情報と金融機関への確認が必要です。
3か月・6か月・9か月の資金繰りを比較する
CASH RUNWAY
一つの売上予測を信じ切らない
月ごとに期首残高、入金、支払、返済、期末残高を並べます。最も残高が少なくなる月を特定し、その前に資金が必要か判断します。
比較の目的は、多く借りることではありません。どのリスクが起きると、いつ資金が尽きるかを見えるようにすることです。
児童発達支援事業の開業で、資金実務は単独で動かなかった
児童発達支援事業の立ち上げでは、収支計画、テナント探し、施工会社探し、銀行融資、補助金申請、店舗デザイン、予算管理を並行して進めました。
物件条件が変われば、工事費と家賃が変わります。工事費が変われば融資申込額に影響し、開業が遅れれば開業前家賃と人件費が増えます。資金計画は、物件・施工・採用・行政と切り離して作れません。
金額を一度入力して終わる表ではなく、見積もりや開業時期が変わるたびに更新するプロジェクト管理表として運用する必要があります。
開業資金計画チェックリスト
設備資金と運転資金を分けた
開業前の家賃と人件費を計上した
見積もりごとに確度を付けた
着手金・中間金・最終支払日を入力した
売上予測を複数シナリオで作った
開業が1〜3か月遅れた場合を試算した
採用が長期化した場合を試算した
税・社会保険・借入返済を計上した
融資実行予定日を確認した
補助金入金までの立替資金を確認した
残高が最も少なくなる月を特定した
予算変更を判断する責任者を決めた
必要なのは、最小の開業費ではなく続けられる資金
安く開業すること自体が目的ではありません。設備を削りすぎれば開業後に追加工事が必要になり、初期投資を増やしすぎれば運転資金が不足します。
必要な品質で事業を始め、売上が安定するまで資金を切らさない。そのために、開業資金を設備・開業前・運転・予備へ分け、支払時期と複数の売上シナリオを照合します。
開業資金のよくある質問
開業資金は平均額を基準に決めてもよいですか?
平均額は相場観を得る参考にはなりますが、自社の必要額を決める基準にはできません。業種、面積、内装、設備、人員、許認可、売上の立ち上がりが異なるためです。自社の見積額と支払日、月次収支から計算します。
運転資金は何か月分必要ですか?
一律の正解はありません。3か月、6か月、9か月など複数のケースを作り、売上の遅れ、採用の長期化、開業延期、追加費用が起きた場合に残高がどうなるか比較します。
補助金を開業資金に含めてもよいですか?
制度の採択、交付決定、対象経費、発注可能日、実績報告、入金時期を確認する前に、確実な手元資金として扱うのは避けるべきです。多くの制度では支払いが先、入金が後になるため、立替資金も確認します。
立ち上げ推進室は融資を保証しますか?
融資の承認や条件を保証するものではありません。物件、施工、採用、開業時期と資金計画を照合し、抜けている費用、支払時期、判断事項を整理します。金融判断は金融機関が行います。
公式情報源
制度情報確認日:2026年8月3日